【ブログ連載 第5回】遺留分制度の見直し(民法改正最終回)

平成30年の民法(相続関係)改正は、昭和55年以来の大改正であり、遺言に関する実務に多岐にわたる影響を与えています。

今回は、この改正における重要なポイントの一つである「遺留分(いりゅうぶん)制度の見直し」について、詳しく解説します!

遺留分侵害額請求権への変更(金銭債権化)

民法改正により、遺留分を侵害された場合に請求できる内容が大きく変わりました。 

改正前は「遺留分 減殺 請求権」として、侵害された財産そのものを取り戻す物権的な効力を持つ請求でしたが、改正後は「遺留分 侵害額 請求権」として、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できるようになりました。

 

改正前は、遺留分減殺請求権を行使すると、遺贈や贈与の目的物について遺留分の限度で共有関係が生じていました。これにより、遺留分権利者が共有を望まない場合でも共有状態となり、権利関係が複雑化するという問題がありました。

金銭債権化により、この複雑な権利関係の発生を防ぐことが期待されています。

 

また、受遺者や受贈者が遺留分侵害額に相当する金銭を直ちに準備できない場合、裁判所に支払いの期限の付与を求めることが可能となり、裁判所は相当な期限を許与できるようになりました(支払いを猶予してもらえるということです。)。

 

遺留分算定方法の見直し

改正法では、遺留分の計算方法がより明確化されました。

 

負担の順序:

◉受遺者と受贈者がいる場合、受遺者が先に負担します。

◉複数の受遺者や同時贈与の受贈者がいる場合、目的物の価額の割合に応じて負担します。

◉複数の受贈者がいる場合、後の贈与を受けた者から負担します。

 

計算方法:

遺留分から以下の価額を控除し、遺留分権利者が承継する債務を加えて計算します。

◉遺留分権利者が受けた遺贈や贈与の価額。

◉具体的な相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額。

 

目的物の価額:

◉受遺者や受贈者が相続人の場合、それらの遺留分額を超過する部分が目的物の価額とされます。

◉負担付贈与(例:不動産を贈与する代わりに、特定の借金を肩代わりしてもらうなど)については、負担を控除した価額で算定されます。

◉不相当な対価による有償行為も、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合は、対価を負担の価額とする負担付贈与とみなされます。

 

相続人に対する贈与の算入期間の制限(10年ルール)

遺留分算定において最も大きな影響を与える改正点の一つが、相続人に対する贈与の算入期間の制限です。

相続人に対する贈与については、相続開始前10年間にされたもののみが遺留分算定の対象に算入されることになりました。

この点、改正前は、相続人に対する贈与には期間の制限が設けられておらず、何十年も前の生前贈与まで遺留分減殺請求の対象となる可能性があり、不合理な場合が生じることがありました。

この改正は、法的安定性を図ることを目的としています。

 

ただし、遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた贈与については、10年の期限を問わず算入されるという例外があります。今後は、この「損害を与えることを知っていたか」という点が争点となる可能性がありますので注意が必要です。

 

債務の取扱いの明確化

相続債務がある場合の遺留分侵害額請求における問題点も解消されました。

改正前は、受遺者や受贈者が相続債務を弁済しても、遺留分権利者からの遺留分減殺請求に対して相殺ができず、別途求償する必要があり、手続きが煩雑でした。

改正後は、受遺者らが相続債務を弁済等により消滅させた場合、その限度で遺留分侵害額請求による金銭債務を消滅させることが可能となりました。

これにより、遠回りな求償関係の発生が避けられます。

 

まとめ

今回の民法(相続関係)改正における遺留分制度の見直しは、遺留分を侵害された際の請求方法を金銭債権化し、算定方法を明確にすることで、相続をめぐる紛争の防止と、より円滑な解決を目指しています。

特に、相続人への贈与の算入期間に10年の制限が設けられた点は、実務に大きな影響を与えることでしょう。

 

これで民法改正についての全5回解説を終わります。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

今後は、相続に関する各論点(遺言書や遺産分割協議などなど)について、お話していきたいと思います。

どうぞお楽しみに!