【ブログ連載 第4回】遺言の内容、誰が実現する? 遺言執行者の権限が明確に!

こんにちは!相続専門の行政書士、末藤です。

これまで、民法改正による自筆証書遺言の作成方法や、保管制度の創設についてお話ししてきました。

今回は、遺言書の内容を実際に実現するための手続きを行う「遺言執行者」(いごんしっこうしゃ)に関する改正点を見ていきましょう。

 

唐突ですが、AIに“遺言執行者”のイメージ画像を作成してもらったところ、このような画像が…

革手袋なんて付けてしまって、「なんの“執行者”だ!?」といったところですね…

 

遺言執行者って、どんな人?

遺言執行者とは、遺言書で指定された内容(例えば、「この不動産をAさんに相続させる」「預貯金からBさんに〇〇円を遺贈する」など)を、相続開始後に実現するための様々な手続き(相続登記、預金の払い戻し、不動産の引き渡しなど)を行う役割を担う人です。

遺言者が遺言書の中で指定することができます。

 

改正前は、役割が少し曖昧だった?

民法が改正される前は、遺言執行者の法的地位について、「相続人の代理人とみなす」という短い規定があるだけでした。

そのため、遺言執行者が行う手続きにおいて、「誰が法的な当事者になるのか?」といった点が不明確で、紛争になるケースも見受けられました。

例えば、不動産の名義変更(相続登記)を行う際に、遺言執行者の権限だけでは手続きができない場合があったのです。

何が変わったの? 遺言執行者の権限が分かりやすく!

今回の改正では、遺言執行者の法的地位や、具体的にどのようなことができるのかという一般的な権限が、より明確にされました。

新しい民法では、遺言執行者は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とハッキリと規定されました。

これにより、遺言執行者が遺言を実現するために必要な幅広い権限を持っていることが明確になりました。

 

特に重要な改正点として、以下の点が挙げられます。

•遺贈の履行は遺言執行者だけ

遺言で特定の人に財産を無償で与える「遺贈」(いぞう)について、その内容を実現する(例えば、不動産の名義を受遺者へ変更する、預貯金を引き出して渡すなど)のは、「遺言執行者のみが行うことができる」と明確に規定されました。

これにより、遺贈を受ける人(受遺者)が誰に履行を請求すれば良いのかが分かりやすくなりました。

•相続人への直接的な効力

遺言執行者がその権限の範囲内で、遺言執行者として行った行為は、相続人に対して直接にその効力を生じると規定されました。

これは、遺言執行者が「遺言者の意思を実現する役割」であることを明確にするもので、遺言執行者が行う手続きが、相続人全員の同意を得なくても進めやすくなったと言えます。

この点のポイントは、もし遺言者の意思と、特定の相続人の利益が対立するような場面があったとしても、遺言執行者は遺言者の意思に従って遺言内容の実現を図ればよく、必ずしも相続人全員の利益のために行動する必要はないことが明確になった点です。

•相続人への通知義務が新設

改正法では、遺言執行者がその任務を開始したときに、遅滞なく、遺言の内容を相続人全員に通知しなければならないという「通知義務」が新設されました。

改正前は、遺言執行者がいる場合に相続人が遺言の内容を確実に知る手段がありませんでした。この通知義務によって、相続人は遺言執行者が選任され、遺言の内容がどのようなものであるかを知ることができるようになり、相続人の保護が図られました。

なお、遺言で財産を受け取るだけの受遺者には、この通知義務はありません。

•専門家への依頼がしやすくなった(復任権の拡大)

改正前は、遺言執行者は「やむを得ない事由」がない限り、自分の任務を第三者(専門家など)に任せることができませんでした。

しかし、遺言執行者に指定されるのが、必ずしも法律の専門知識を持たない相続人であることも多く、遺言の内容によっては非常に複雑な手続きが必要になる場合もあります。

そこで改正法では、遺言執行者は「自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる」として、専門家などに任務を委任する「復任権」(ふくにんけん)が広く認められるようになりました。

ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、委任した第三者の選任や監督について責任を負うことになります。

これにより、遺言執行者は必要に応じて弁護士や行政書士などの専門家に業務を依頼しやすくなり、遺言の執行がよりスムーズに進められることが期待されます。

まとめ

今回の改正により、遺言執行者の権限や役割が明確になり、遺言者の意思に基づく遺言内容の実現が、より円滑に行われるような仕組みになりました。

遺言書を作成する際に遺言執行者を指定しておくことの重要性が、より一層高まったと言えるでしょう。

 

次回は、相続人が最低限受け取れる権利である「遺留分」(いりゅうぶん)に関する制度がどう変わったのかについて、詳しく解説します。

どうぞお楽しみに!