【ブログ連載 第2回】自筆証書遺言がぐっと身近に!書き方が変わりました

皆さん、こんにちは。行政書士の末藤です。

前回の第1回では、相続に関する民法改正の全体像と背景についてお話ししました。

今回は、改正の大きなポイントの一つである、「自筆証書遺言」(じひつしょうしょいごん)の方式緩和について詳しく見ていきましょう。

そもそも「自筆証書遺言」って?

遺言書にはいくつかの種類がありますが、「自筆証書遺言」は、紙に自分で書いて作成する遺言書のことです。費用もかからず、思い立った時にすぐに書けるというメリットがあります。

しかし、改正前は、日付、氏名、本文の全てを、自分で書かなければならないという、とても厳格なルールがありました。特に、遺産のリストである「財産目録」も含めて全て手書きする必要があったため、

•高齢になり、思うように文字が書けなくなった

•財産がたくさんありすぎて、リストを全て手書きするのが大変

といった理由から、遺言書を作りたくても作れない、あるいは作成中に間違いが起きてしまう、というケースが少なくありませんでした。これは、自筆証書遺言の利用を難しくしている原因の一つでした。

 

改正で何が変わったの?財産目録が手書きじゃなくてよくなった!

今回の改正で、自筆証書遺言が格段に利用しやすくなりました!

一番大きな変更点は、「財産目録」については、自分で書かなくてもよくなったことです。

これは、改正民法968条2項で定められました。

つまり、財産目録を遺言書に添付する場合には、その目録は手書きである必要がなくなったのです。

具体的には、

•パソコンで作成・印刷した財産目録

•第三者に代筆してもらった財産目録

•不動産の登記事項証明書のコピー

•預貯金通帳のコピー

•株式に関する書類(議決権行使書、配当金計算書など)のコピー

などを、財産目録として添付することができるようになりました。

これにより、遺言を作成する方の負担が大きく軽減され、自筆証書遺言がもっと多くの方に利用されるようになることが期待されています。

 

財産目録を添付するときの注意点

財産目録が手書きでなくてよくなったとはいえ、いくつか注意点があります。

1.署名と押印が必要

手書きではない財産目録を利用する場合、目録のすべてのページに、ご自身で署名し、押印する必要があります。両面に記載がある場合は、両面に署名と押印が必要です。

2.遺言書本文との一体性

添付した財産目録と、手書きの遺言書本文が「一体のもの」として認められる必要があります。法律上は必須ではありませんが、一体性を示すために、契印(複数の書類にまたがるように押すハンコ)をするなどの対策を検討すると良いでしょう。

遺言書本文とは別の日に財産目録を作成した場合など、作成日が異なる可能性があるため、一体性が疑われないように工夫することが大切です。

3.財産の特定

添付する財産目録や書類は、どの財産を指しているのかが明確に分かるようにする必要があります。例えば、不動産なら所在や地番、家屋番号など。預貯金なら銀行名、支店名、種別、口座番号などです。

4.余事記載(余計な情報)に注意

登記事項証明書や通帳のコピーには、財産の特定に必要な情報だけでなく、過去の履歴や残高など、様々な情報(余事記載)が含まれていることがあります。

これらの情報があっても、基本的には財産の特定に問題はないとされています。

しかし、その余事記載によって、遺言者の意思が不明確になってしまう可能性もゼロではありません。例えば、通帳のコピーに記載された残高について、「この金額だけをあげる」という意味なのか、それとも「この口座にある全てをあげる」という意味なのか、判断に迷うような書き方にならないように注意が必要です。

もし余事記載に特別な意味がないのであれば、遺言書本文にその旨を明確に記載するなどの工夫をすると良いでしょう。

5.加除訂正・差し替えの方法

作成した財産目録を後から修正したり、別のものに差し替えたりすることも可能です。

ただし、その際には、法律で定められた方法に従って行う必要があります。本文の訂正と同様に、変更した場所に押印し、変更した旨を付記して署名が必要です。差し替えの場合は、元の目録に❌️を記して押印し、新しい目録に別の番号を付けて署名押印します。

便利になったからこその注意点

自筆証書遺言は、財産目録のルールが緩和されたことで、より多くの方が利用しやすくなりました。これは素晴らしいことですね!

しかし、遺言能力(遺言書を作成できる判断能力)に関するルールは改正されていません。そのため、利用しやすくなった分、遺言能力があるかどうかが争点となるような紛争が増える可能性も否定できません。

また、書き方や内容に不備があると、せっかく書いた遺言書が無効になってしまうリスクもあります。

ですから、自筆証書遺言を作成する際には、今回の改正によって便利になった点だけでなく、遺言能力や、将来の家族間の争いを防ぐという観点から、慎重に進めることが大切です。

 

次回は、自筆証書遺言を紛失や偽造の心配なく保管できる、法務局の自筆証書遺言書保管制度について詳しく解説します。

それでは!!